梯久美子 『散るぞ悲しき』(新潮文庫)
63回目の終戦記念日
大学の K 先輩に「すばらしい本だし、両角さんの活動の参考にもなると思うから是非読んでみて」と勧められた 梯久美子著 『散るぞ悲しき』(新潮文庫)を読了した。
大宅壮一ノンフィクション賞を受賞したこの文庫、終戦時、本土防衛の最後の砦としての硫黄島戦を闘った栗林忠道総指揮官を扱った戦記である。戦記といっても戦争ドキュメンタリーと言ったものではなく、栗林中将の家族へ送った戦場からの手紙を中心に当時の状況が描かれている。この結果、栗林という人間の目から物事を見る展開がとられており、極めて人間くさい物語ともなっている。
ひとりの夫、父親として家族を思う人間栗林と絶望的な状況で徒手空拳圧倒的な米軍に臨む軍の総指揮官としての栗林。温かい家庭人の姿と緻密、毅然とした軍人としての2面性。余りにもかけ離れた日米の戦闘力の差。
これらが全て歴史に残る硫黄島の戦いの激烈と悲惨さを際だたせる。全編を通じ、戦争指導層の偏狭な視野と柔軟性に乏しい発想が日本を壊滅に導いていった主要因ではないかとの主張が滲んでいる。真面目に家族や国を思い命を落としていった一般市民と兵隊、後方で画を描き檄を飛ばす無能な指導者、当時の日本とはこうした国ではなかったのか。
「散るぞ悲しき」の辞世を「散るぞ口惜し」に改ざんして発表した大本営。読んでいても怒りを感じると共に欺瞞に満ちたこの組織には目を覆いたくなる思いである。
2万余の硫黄島日本軍はほぼ全滅し米軍にも多大な死者が出た戦闘の模様は正に地獄であったという。このような戦闘が絶えて久しい今の日本に暮らす我が身の幸運を感じないわけにはいかない、と同時にこの地で闘わざるを得なかった人々の運命の残酷さを思った。
今なお夥しい数の遺骨が眠るという硫黄島。島で命を落とした人々に深く哀悼の意を捧げたい。
講評 ☆ 4つ
厳粛な気持ちになります k先輩ありがとうございました。
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